どれだけ知ってる? 「たばこ」にまつわることわざたち《前篇》
日々の会話にちょっとした奥行きをもたせてくれることわざたち。そんなことわざの中には、たばこにちなんだものもあることをご存知ですか? そこで今回は、たばこにちなんだことわざをご紹介します。
ことわざには「たばこ」にちなんだものがある?
日々の会話にちょっとした奥行きやユーモアをもたせてくれることわざ。そんなことわざの中には、「たばこ」にちなんだものがあることをご存知ですか? そこで今回は、たばこにちなんだことわざが生まれた背景を絡めながら6つご紹介します。
「たばこ」にちなんだことわざたち
①えへんたら煙草盆(たばこぼん)
意味:相手が咳払いをしたら、すぐに煙草盆を出すくらいの機転を利かせること。
むかしは、多くの家庭にたばこ盆があり、そこには火入れや灰落としなどがセットされていたそう。今日でいうのであれば、灰皿と卓上ライターのセットがそれにあたります。
現代で”咳払い”をして意思を伝えようとする人は少なくなっているかと思いますが、たばこを吸う人にとっては、あらかじめ灰皿を用意されているとホットするものなのかもしれません。
②行灯(あんどん)の火で煙草を呑む
意味:「行灯の火でたばこをのむと、願いごとが叶わなくなる」という言い伝え。
ライターが普及している現代では、たばこの火に困ることはほとんどありませんが、ライターもマッチもなかった江戸時代は、たばこを吸うのは火種のあるところに限られていました。そのため当時は、火入れと灰吹がセットされているたばこ盆のほか、火鉢のまわりも恰好の喫煙場所になったといいます。
屋外でたばこを吸う際は、たばこ入れと火打ち石などを腰に携えて用を足したそう。そのほか、近くにたばこを吸っている人がいれば、その人から火を借りるという風習は、ごく一般的なものでした。
屋外でたばこを吸いたいのにどうしても火がない場合、当時の人々は行灯(あんどん)の火を借用しようということにもなったのかもしれません。しかし、風覆いを開けて行灯の火を取る行為は、あまり行儀のよいものではないほか、周囲へ火が広がる危険もあります。
このような言い伝えがあるのは、マナーの悪い一部の愛煙家へ向けた戒めだったのかもしれません。
③火事場に煙草の火なく大水に飲み水なし
意味:ひとつのものがありすぎても、役に立たないこと。
どんなものであっても、数がありすぎても役に立たないもの。そのたとえが、火事場の火ではたばこの火種にならないし、洪水では飲み水にならないということわざ。たばこは身近な存在なだけに、江戸時代当時から何かと引き合いに出されたのかもしれません。
④三遍回って煙草にしょ
意味:休憩は後回しにして、まずは仕事がしっかりと出来ているか念には念を入れて確認をすること。きちんと確認ができてから、休憩をしようということ。
自警団が拍子木(ひょうしぎ)を鳴らしながら夜回りをする習わしは、戦前までは各地に残っていました。江戸時代は「自身番」と呼ばれるものがあり、不審者がいないか、また火の元は問題ないかと木戸の内を夜回りしたといいます。
とはいえ、何事も毎晩のように同じことをくり返していると、つい注意を怠ってしまうことがありますが、そのようなときに限って、あとでハプニングが起こってしまうもの。
そこで「夜回りは三度してから休憩しよう」の意味が発展し、「物事は念入りに行ったうえで休憩しよう」「休むのはひとまず後にして、念には念を入れて仕事には手落ちがないよう十分気をつけよう」との意味にもなりました。
⑤一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭(いちふじにたかさんなすび しおうぎ ごたばこ ろくざとう)
意味:初夢に見ると縁起のいいものの順番のこと。
初夢に見ると縁起がいいとされているのが、「一富士二鷹三茄子(いちふじにたかさんなすび)」。日本人ならば誰しもがいちどは聞いたことがあるであろうことば。じつは、この先につづきがあったことをご存知でしたでしょうか。
「扇」は末広がりのかたちをしていることから子孫や商売の繁栄を意味し、「煙草」は煙が上にあがるので縁起がよく、「座頭」は琵琶法師の座に所属する剃髪した盲人を指しており、「毛が無い」→「怪我ない」ということから家内安全を意味しています。
⑥銀煙管脂下がり(ぎんぎせるやにさがり)
意味:いい気分になって、ニヤニヤしている様子のたとえ。
高価なキセルが目立つように、雁首を上に突き出すような形にくわえるポーズが「銀煙管脂下がり」と呼ばれるものです。
雁首を上向きにしてたばこを吸うと、たばこの脂(やに)が吸口の方へ下がってくるため、たばこの味は決してよいとは言えませんが、ちょっと気どった感じを出したい時、江戸っ子は粋がってこんなスタイルでたばこを吸っていたそうです。傍から見れば「高慢ちき」と映ることも承知の、ややツッパリ気味の喫煙ポーズといえるでしょう。
「脂(やに)下がる」は、ここから転じて、「いい気分になって、にやにやする」の意味にもなり、「女性にちやほやされて、やに下がっている」などの表現も生まれたそう。
じつはまだある、「たばこ」にまつわることわざ
いかがでしたか? もしかすると、現代の日常会話では使える場面は少ないかもしれませんが、いずれも江戸時代当時の文化や習わしをなんとなく感じられるのではないでしょうか。
ひき続き、次回もたばこにまつわることわざをご紹介してまいります。